【萬物相】「老人」考
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2012/06/24 09:31 朝鮮日報
朝鮮王朝時代の詩人、松江(ソンガン)チョンチョルの作品に「荷物を背負ったそこのお年寄り、荷物を下ろして私にください」と始まる詩がある。松江が道を歩いていると、重い荷物を背負っている老人に出会った。「年を取るのもつらいだろうに、荷物まで背負っていかれるのか。荷物は若い私が背負っていきましょう」と老人を敬う気持ちを歌った詩だ。ここでの「年寄り(ヌルグニ)」は(現在のように)老人を見下した言葉ではない。朝鮮王朝時代には「老人」と共に、年を取った人のことを指す普通の名詞だった。しかし20世紀に入り「老人」だけが定着し「年寄り」は普段あまり使わないようになった。
松江の詩の中に登場する「年寄り」の年齢はどのくらいだったのだろうか。おそらく50歳を大きく超えてはいなかっただろう。韓国人の平均寿命は1925-30年に37.4歳だったが、10年後の35-40年には40.9歳に延びた。栄養状態や医療環境を考えると、朝鮮王朝時代の人たちの平均寿命はこれよりも長かったとは考え難い。40歳前後ならば老人として振る舞い、周囲からも老人扱いを受けるような社会の雰囲気だったようだ。近代以降も書道家の中には40-50代で作品に「○○老人」と署名するケースが少なくなかった。
今そのような人がいたら間違いなく後ろ指を指されるだろう。現在の韓国人の平均寿命は81歳と、OECD(経済協力開発機構)加盟国の平均をはるかに上回っている。65歳以上の老人は550万人と、全体の人口の11.3%にも上る。老人の数が増えた上、過去に比べてずっと健康で活動的だ。そのため最近の老人たちは「老人」と呼ばれることさえも嫌がる。数年前、保健福祉部(省に相当)が、60歳以上の1万5000人を対象に「何歳から『老人』と呼ぶべきか」という調査を行った。51%が「70―75歳」と答え、「75―80歳」も10%に上った。今は「老人」の基準年齢がさらに高くなっているはずだ。
ソウル市が公式文書や行事で「老人」という言葉を使わないことにしたという。意欲にあふれ第二の人生を準備したり、楽しんだりしている人たちを今までのように「老人」と呼ぶのはふさわしくないというわけだ。ソウル市は市民を対象に「老人」に代わる言葉を公募し、まず「老人福祉館」「敬老堂」「ソウル市老人福祉課」のような名称を変えることにした。
雪に覆われたアルプスに暮らすスイスの人たちは、60歳以上の老人を「赤いセーター」と呼ぶ。これは、還暦のときに家族が手編みで作った赤いセーターを贈ることに由来している。赤のように情熱的に残りの人生を過ごしてほしいという意味もある。中国では物事の是非を教える年齢だとして、「知非」とも呼ばれる。時代や社会によって、年を重ねた方々を呼ぶ言葉はいくらでも変化し得るだろう。問題は、どれほど心を込めて、彼らのための福祉や、礼遇の気持ちを行動に移すかどうかだ。
金泰翼(キム・テイク)論説委員
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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