2011年11月10日木曜日

■回復の兆しと新たな脅威への対応-通訳案内士のインバウンド考・第7回


回復の兆しと新たな脅威への対応-通訳案内士のインバウンド考・第7回
http://www.travelvision.jp/column/detail.php?id=51079
2011年11月9日(水)トラベルビジョン

震災後、初のガイドは京都・奈良へ  東日本大震災後、初のコラムです。なぜ今まで書けていなかったかというと、インバウンドの関係者なら誰しもが経験したように、通訳案内士にも震災、原発の影響が直撃したためガイド業務がなく、正直なところネタがなかったのです。逆に言うと、このコラムが復活したのは……そう、少しずつではありますが、お客様が戻ってきたからなのです!ガイドの主観にはなりますが、今回は私が現場で感じているインバウンド復活の兆しや旅行の傾向について書きたいと思います。


ブッキング復活は今秋、欧米系FITから

欧米のFITから戻りの兆し  多くのガイドやインバウンド関連の旅行業界関係者の例に違わず、私も震災後、それまで入っていたお仕事のブッキングが100%キャンセルになりました。私は英語の通訳案内士で仕事の拠点は関東ですが、お客様の旅行先にあわせて関西や九州でもガイドをしています。震災後にガイド業務を承ったのは5月のことでしたが、知り合いの親戚のイギリス人カップルのガイドで、ごく個人的なお仕事でした。なので、2ヶ月ぶりの仕事でしたが「ようやく戻ってきた!」というより「本格的にお仕事がもらえるのはいつになるのだろう」と後ろ向きな気持ちで、先が全く見えない状態でした。

 それ以降、8月まで全く動きがなかったものの、秋の観光シーズンに入ってからは少しずつお仕事をいただけるようになりました。ほかのガイド仲間も例年ほどではないまでも、秋は稼働日が増えてきたようで、10月の前半には某旅行会社から「ガイドがいなくて困った!助けて!」という声も聞かれたほどです。このうれしい悲鳴、私は「これぞ回復の兆しだなぁ」という旅行会社さんの言葉にホクホクと喜んでいました。

 しかし、私の場合はブッキングの傾向が例年と様子が異なっています。震災後にFITを専門で取り扱う旅行会社とお取り引きを始めたのですが、今秋のブッキングのほとんどがその会社経由。従来は団体旅行が仕事の8割だったのですが、今年は空港送迎を含めても、FITの半分以下です。私のような極端な例でなくても、今までグループを扱うことが多かった欧米系言語ガイドの仲間がFITのお仕事を受けたという話を聞くことが増えました。

 国・地域別でいうと、英語ガイドの私がこの秋にご一緒させていただいたのは欧米系ばかり。数少ない団体旅行でも同じでした。英語ガイドは確かに欧米系の旅行者のガイドがメインですが、実はタイや中東からのお客様も承っていました。それが現在、ゼロになってしまったのです。実は10月上旬にタイの富裕層FITの予約の話が来たものの、その時は「原発問題が不安」という理由で直前にキャンセルとなってしまいました。近い地域のほうが情報が伝わりやすく、戻りも早いのかと思っていたのですが…。

 ただ、私にはお仕事のお話が来ないものの、9月に箱根で欧米系のお客様のガイドをしていた時に、東南アジア方面からの大人数のグループを見かけました。その時の芦ノ湖クルーズの様子は、半分が日本人、残り半分弱が東南アジアからの団体客、そして欧米系のFITがちらほら見られるという具合。欧米系はFIT、アジア系は団体、という傾向で復活しているのでしょうか。データがあれば是非傾向を知りたいところですが、個人的な感覚としてはそのような気がしています。


「楽しむこと」が一番、訪日旅客の寛容性

修学旅行生に囲まれてしまいました  さて、震災後に日本に旅行に来られたお客様は、地震、津波、原発に関するセンセーショナルな報道を自国で見聞きしているはずなのに、日本国内を旅することに不安はないのでしょうか。震災後にガイドをするまで、私としてはお客様が放射能の影響を恐がったりするのではないかと非常に心配していました。自分自身、どの程度気をつけたらいいのかがはっきりとわからない状態なので、なおのことです。

 しかし、私の心配をよそに、お客様は震災での東北の被害を深く悲しみ、同情こそすれ、「放射能が怖いから」を理由に特定の観光や食事を拒むことをいう方はいませんでした。強いていえば今の復興状況や福島から今いる場所の距離を聞かれることがある程度です。むしろ、あまりにお客様があっけらかんとしているので、あえてこちらから日本への旅行は怖くなかったのか聞いてみたところ「気にならなかった。ニュースは過熱報道気味だったのではないか」と一蹴。不安な方はそもそも来ないでしょうが、来られた方は事態を冷静に判断し、来たからには思いっきり楽しもうという姿勢でいるようでした。

 ちなみに、先述の5月のお客様は「原発問題が騒がれる今だからこそ京都が空いていて快適な旅行ができた」という自国での新聞記事を見て、ゆったり旅行するチャンスだと思って来日したそうです。ただし、実際に一緒に京都、奈良をまわってみたところ京都は修学旅行生でいっぱい!一気に外国人旅行者が少なくなった分、私のお連れしたイギリス人のお客様が目立ってしまい、修学旅行生に度々声をかけられ、ゆったり…とはほど遠い旅行になってしまいました。


円高は震災以上の脅威、今だからこそ満足度向上を

食事など「放射能が怖い」影響はないが、値段は気になる  このように少しずつお客様が戻り、不安以上に訪日旅行への期待に胸を膨らませたお客様をガイディングをしているのですが、最近では震災、原発の影響以上に円高の脅威に頭を悩ませています。ガイドはガイド料を下げるようにお願いされない限りは直接の影響は少ないように見えますが、私は円高の今だからこそガイドがいつも以上に頑張らねばならないように思うのです。

 先日、朝ご飯代わりに築地の場外市場でロンドンから来たお客様と海鮮丼を食べた時のことです。お客様は先述したように原発問題など全く気にする様子はなく、新鮮なお魚が食べられると喜んで席につきました。でも、一瞬表情が曇ったのです。1人前700円のどんぶりを前に、世界一物価が高いと言われるロンドンから来ているお客様が「日本はやっぱり物価が高いよね…」と。

 いわずもがな、ですが、円高の影響でお客様は割高感をもってしまいました。円高でなければ意外と東京でも物価は高くないと説明もできますが、初めて来られるお客様にとってみれば、その時のレートが自分の中での基準になります。1年前、10年前のレートがどんなに円安だったとしても、それはお客様には関係のないこと。もし1回目の来日で物価高を感じて日本を楽しんでいただけなかったとしたら、リピーターとして来ていただける可能性が非常に低くなってしまう危険性があるのではないか…。そう思うと、今の時期はいつも以上にガイディングを頑張らないといけない気がしています。

 円高への対応としては、ツアーのコストを削るなど、出来ることは限られています。しかし、品質を落としてお客様の満足度を低下させては台無しです。「日本はちょっと高かったけど、とっても良かったからまた行こう!」そんな気分を感じていただき、2度目、3度目の訪日旅行につなげられるほうが長期的に見ていいような気がします。例えば、リピーターとなって再訪したときに円安に転じていれば、「意外と安く旅行できる!」とうれしいサプライズになり、満足度アップも期待できるのではないでしょうか。

 まだまだ大変な時期が続きますが、工夫と熱意でお客様の満足度を上げ、今のピンチを将来のチャンスに変えていきましょう!


0 件のコメント:

コメントを投稿