2011年12月12日月曜日

■米年末商戦初日、最大の売れ筋は「銃」―規制緩和加速が原因か


【肥田美佐子のNYリポート】
米年末商戦初日、最大の売れ筋は「銃」―規制緩和加速が原因か
http://jp.wsj.com/US/Economy/node_357822
2011年 12月 9日  10:59 JST WSJ

米国では、クリスマスプレゼントの購入も佳境に入り、年末商戦も、いっそう熱を帯びてきた。

 今年のブラックフライデー(小売業界が年最大の黒字になる感謝祭<11月第4木曜日>翌日の金曜日)は、昨年の6.6%増を記録。その週末の売上高は全米で520億ドル(約4兆1000億円)に達したが、なかでもベストセラー商品として話題を呼んだのが「銃」である。

 全国紙『USAトゥデー』によれば、ブラックフライデー当日、米連邦捜査局(FBI)には、12万9166件の銃購入用身元調査依頼が飛び込んだ。1日の調査以来数でこれまでトップだった2008年のブラックフライデー(9万7848件)を約3割も上回る史上最高記録である。銃所持者が多い中西部や南部では、買い物客でごった返す銃器販売店もあり、親が子どもに購入の順番待ちをさせる光景も見られたと報じられたという。

 また、一人で複数の銃を買う人もいるため、実際の売り上げは、身元調査依頼数より多くなる可能性もある。購入希望者のうち、初めて銃を買う人は25%に上り、女性も、昨年より9%はね上がった。

 現在、米国で私的に所有されている拳銃は2億7000万丁。市民100人につき90丁が出回っていることになり、中東の「銃大国」イエメン共和国の61丁を優に超える。米国は、銃の数でも、押しも押されもせぬ「超大国」なのである。

 米世論調査会社ギャラップが10月26日に発表したリポートでも、米国で、銃支持派が勢力を増していることが分かる。自己申告レベルの統計ながら、銃を持っていると答えた人は47%に達し、昨年より6ポイントも増加。女性が世帯主である家庭の銃保有率も、43%という記録的な数に上っている(昨年は36%)。

 保守的な土壌で知られる南部では、銃所有者の割合は54%に達し、次いで中西部51%、西部43%、東部36%と続く。米国きっての銃フレンドリーな州として知られる南部アリゾナ州のトゥーソンでは、今年1月、政治集会で、若い男が、民主党のギフォーズ下院議員(41)などを半自動式拳銃で乱射。同議員は一命を取り留めたものの、後遺症やつらいリハビリと苦闘する毎日だ。

 こうした凄惨な銃乱射事件が後を絶たないにもかかわらず、米国では、ここ数年、銃規制派が押しやられ、銃所持の権利を主張する世論の声が高まっているという皮肉な現実がある。「人民が武器を保有し、携帯する権利」を定めた合衆国憲法修正第2条を重視し、州の銃規制を緩める流れが加速しているのだ。

 銃規制問題に詳しいコロンビア大学ロースクールのナサニエル・パーシリー教授は、今年1月、本コラムの取材にこたえ、「多くの米国人が、銃所有の権利を基本的人権だとみなしている。全米ライフル協会(NRA)に対抗する政治的基盤は、ほぼ皆無だ。銃規制派は、ワシントンでも裁判所(の判決や判例)でも劣勢に立たされている」と語っている。

 昨年7月、同教授が共同で行った調査では、76%が、銃所有を禁ずる法律に異を唱えた。修正第2条(人民の武装権)の下で市民は銃を所有する基本的人権を有する、と答えた人も72%に達している。

 米メディアによると、現在、銃を外から見えない状態で携行する「隠し持ち」が禁じられている州はイリノイだけだ。最近、シアトルでは、公園内での銃器規制がくつがえされた。

 規制緩和が銃の購入を増やし、銃が、より一般的に受け入れられるようになる。そして、銃購入への罪悪感が薄まり、また売り上げが増える。数年前には、PC(政治的正当性)の観点から、銃購入への抵抗が強かったが、今では、ショッピングモールに足を運ぶような感覚で銃器店に出かける人も少なくない。一部のマニアが通う場所という従来の通念を払しょくすべく、スポーツ店のようなインテリアづくりにする店も増えている。

 サウスカロライナ州では、今年もブラックフライデーをねらい、拳銃やライフル、散弾銃などの消費税免税措置が取られた。夏の新学期免税措置と並ぶ同州の目玉キャンペーンである。米誌『タイム』によれば、サウスカロライナのある銃器店は、値引きキャンペーンが奏功し、ウェブサイトへのアクセスが殺到して一時的にダウンしたという。ケンタッキー州では、銃所有を合法的に認められている州民は、誰にでも銃器を贈ることができる。

 ニュース専門局MSNBCが、ブラックフライデーの銃売り上げ報道に付随して行った世論調査では、回答者7万9836人の約8割が「銃は、クリスマスプレゼントにぴったり」だと答えている。

 1月のアリゾナ州乱射事件後も、多くの州で銃が飛ぶように売れ、同州では、前年同日比で60%増を記録。オハイオでは65%増となり、ニューヨークでも30%強急増した。乱射事件が起こると、銃規制強化を懸念して購入に走る人が増えるためだとみられる。

 世界秩序を保つためには武力行使も必要だと考える人が75%に達する「力の国」アメリカ――。銃支持の流れは止まりそうにない。

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肥田美佐子 (ひだ・みさこ) フリージャーナリスト


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