2011年12月7日水曜日

■老舗困った! 「すし」に異変、人気はサーモンへ マグロ後退


老舗困った! 「すし」に異変、人気はサーモンへ マグロ後退‥背景にグローバル化も
2011/12/7 7:00  日経Web

 すしに異変――。マグロに代わってサーモンが主役の時代になろうとしている。サーモンは、値段も手ごろでマグロのトロ同様に脂がのっていることから、海外では以前から人気のあるネタ。日本に逆進出し、国内の回転ずしでは主役の座に上りつめた。伝統のすし文化が揺らぐ中、江戸前の老舗にはサーモンをすしネタに使うことに対する抵抗感が強い。

■外国人はサーモン好き

 「アイ・ウッド・ライク・トゥ・ハブ・ワン・サーモン(サーモン、ひとつ!)」――。

 早朝5時の築地は、多くの外国人観光客でにぎわう。まだ暗く、冷え込みが厳しい天候にもかかわらず、すし屋の前には長蛇の列が目立つ。外国人に人気のすしネタがサーモンだ。

 米シカゴから観光に来たミッシェル・スミスさん(29)は、日本滞在の最後の日においしいすしが食べたいと築地を訪れた。「日本で新しいネタも食べたが、最後は大好きなサーモンを食べたい」。

 場内市場にあるすし店「寿司大」では、2、3年前からネタとしてサーモンの取り扱いを始めた。漆原訓店長は「サーモンを使うのは抵抗があった。外国人や日本人の若者からサーモンが食べたいという要望が多かったことから、ネタに加えることを決めた」と話す。同店は、江戸前ずしにも合うサーモンを探し求め、現在は北海道産を使っているという。

■回転ずしランキング1位に

 こうした動きは、統計にも表れている。ミツカンが実施した回転ずし利用者を対象にした「印象に残っているすしネタ」ランキングでは、サーモンはマグロの赤身を抑えてトップになった。同社の回転ずしネタの人気ランキングでは、08年に「主婦の好きなネタ」でサーモンが突如2位に浮上。それまではランキング圏外だった。

 マルハニチロホールディングスの調査(10~50代の回転ずし利用者が対象)でも、「まず最初に食べるネタ」として、サーモンがマグロを抑え、1位となった。女性を対象とした「最後に食べる締めのネタ」でも1位に選ばれた。

 仙台市の女性自営業(30)は「サーモンはトロほど脂っぽくなく、ほどよく脂が乗っているから食べやすい。すし屋でも積極的に頼んでしまう」と話す。東京都内の女子高生(16)も「トロは食感があまり好きではない。サーモンは色もきれいで好き」という。サーモンの人気は、女性や若者が中心となって支えている。

 こうした嗜好の変化を捉え、回転ずしなど外食チェーンやスーパーなどは、サーモンの取り扱いを増やすなどの取り組みを急いでいる。

 かっぱ寿司を展開するカッパ・クリエイトは、「サーモンアボカド」「焼サーモン」など、サーモンを使った商品を6種類提供する。

 11年11月の売り上げ20位内には「サーモン」(2位)、「トロサーモン」(5位)などサーモンを使った3つの商品がランクインした。5年前、20位以内に入ったのは2つだけ。最高順位も「サーモン」の4位だった。

■スーパー、売り上げ2割増 「低価格」後押し

 高級スーパーのクイーンズ伊勢丹を展開する三越伊勢丹フードサービス(東京・中央)は、3年前から刺し身向けなどにノルウェー産オーロラサーモンの取り扱いを始めた。今月の売上高は昨年よりも2割増を見込む。

 オーロラサーモンの刺し身の価格は100グラムあたり約300円。これに対して、マグロの中トロの価格は2倍もする。

クイーンズ伊勢丹では、ノルウェー産オーロラサーモンのフェアを開催(千葉県市川市の本八幡店)
 サーモンが大好物だという7歳の娘を持つ埼玉県川口市の主婦(31)は「マグロに比べて安く、子どももたくさん食べられる。家の食卓によく並ぶ」と話す。日本人の好みは、トロなどの脂ののった刺し身に移ってきた。そうした「脂志向」の中で、割安なサーモンに人気が集まってきたともいえる。
 イトーヨーカ堂でも今年3~11月の刺し身用などのサーモンの売上高は、昨年同期比2割増となった。需要が増加しているため、取り扱う種類を増やして対応しているという。

 年末に向けサーモン人気は一段と高まりそう。ノルウェー産サーモンの輸入を手掛ける第一水産(東京・中央)の今月の売り上げは、昨年の8割増にまで膨らむ見通しだという。

■養殖で安定供給、チリ産が躍進

 「マグロは養殖は難しく、天然のものが多いので品質にばらつきがある場合もある。一方、サーモンは養殖で安定供給ができる」。築地の卸大手はサーモン人気の裏に「安定供給」という事情があるとみる。

 サーモンの生産量は世界的に増加。国連食糧農業機関(FAO)によると、世界のサケマスの総生産量(08年)は312.8万トン。20年前に比べて2.65倍にまで急増した。その増加分のほとんどはチリやノルウェーなどで生産された養殖サーモンだ。

 「養殖されたサーモンは、サイズや価格、脂ののり具合などが均一的」。水産資源の研究開発などを手掛ける独立行政法人、水産総合研究センターの担当者は、養殖サーモンの「均一性」が外食や流通業者に評価されていると話す。「特にチリ産は単価が安く手ごろ」で、09年の世界の総生産量1位で27%を占めるノルウェーに次ぎ、17%を占めるなど存在感を増している。

■老舗はサーモン取り扱いせず…

 一方で、老舗すし屋はこの流れに抵抗する。銀座の高級すし店、久兵衛。ハリウッドで活躍する映画俳優や海外の大物政治家なども訪れる同店には、サーモンへの注文も少なくない。店主の今田洋輔さんは、「ほかの鮮度の高いネタを薦めて、満足してもらっている」という。

 創業145年の歴史を持つ浅草の老舗江戸前ずし弁天山美家古寿司(東京・台東)でも、サーモンの取り扱いはない。親方の内田正さんは「江戸前ずしは冷蔵庫がない時代、生のまま食べられるネタを使ってきた」と、すしの伝統にこだわる。

 「サーモンは冷凍しないと使えないものが多い。そして、店の伝統の酢飯・わさび・すしネタ・煮きりしょうゆの4つのバランスを考えても、サーモンは合わない。それが使わない理由だ」とキッパリ。
 ただ、世界中で入手しやすいサーモンが外国のすし屋でネタとして使われることで「にぎりずしの文化が世界中に広まってきた」とも話す。

 外国人や若い世代の支持を得たサーモン。その人気は、「すし」から「SUSHI」への変化を象徴しているのかもしれない。



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