2011年12月1日木曜日

■“レディー・カガ”に続け! 温泉地を沸騰させるプロモーション


“レディー・カガ”に続け! 温泉地を沸騰させるプロモーション
郷好文の“うふふ”マーケティング
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1112/01/news014.html
2011年12月01日 08時00分[郷好文,Business Media 誠]

絶妙なダジャレで日本の一部を震撼(?)させた、加賀温泉郷の“レディー・カガ”キャンペーン。震災や原発事故で観光客が減少する中、温泉地はどのようにプロモーションすればいいのだろうか。

 近々、中部地方のある温泉に出かける。の~んびりホっとひと息、だといいのだが、残念ながら仕事。気楽に温泉三昧を楽しめる身分ではないのだ。

 「温泉地の施設を利用してアートイベントを開き、地元の人々と“観光地起こし”を仕掛ける企画を考えてほしい」という要望に応えて、相棒cherryさんと出かける。彼女とはコンビでいくつもコンサルをしていたし、ギャラリー運営とクリエイター支援をしているのでハマり役ではある。

 その温泉地は泉質が良く効能もたっぷり、雪質も良くスキーもすいすい。県内では評価が高いエリア。ところが、首都圏から見て「あそこに行こう」とすぐに思いつかないのだ。草津や箱根湯本、熱海や鬼怒川など著名温泉がある中、「なぜそこに行くのか?」という理由に乏しい。観光経済新聞社の「にっぽんの温泉100選 知名度ランキング(参照リンク)」でも中位に低迷している。

 実はここだけじゃない。多くの温泉街が知名度の低さを憂い、魅力を伝えることに四苦八苦している。さらに、震災と原発事故のダブルパンチに見舞われている日本。国内外の宿泊客が減少して、旅館の倒産も続発。せっぱ詰まっているのだ。

 そんな中、クリーンヒットしているプロモーションが“レディー・カガ”。ガガじゃない。カガ(加賀)のレディーである。

 レディー・カガは石川県の加賀温泉郷の旅館組合青年部が仕掛けたプロモーション。ガガと加賀をかけたネーミングは秀逸で、それ一本という感じもするが、動画の出来はいいし、ポスターやFacebook(参照リンク)展開も見事。


レディー・カガのポスター

 加賀温泉郷も首都圏での知名度不足が課題だった。石川県の統計によると加賀への観光客の割合は「県内=60%、関西=20%、関東=5%」で、金沢や能登の「関東からの観光客=15%前後」とは対照的。大阪・京都からは特急サンダーバード1本で来れるが首都圏からは遠い。2014年の新幹線開通を機に集客増を図りたい。問題は知名度だ。

 そこで生まれたのが、起死回生の一手のダジャレである。登場するのは現役の仲居さんや芸妓さんら加賀美人。ダジャレ1つで加賀温泉郷(粟津・片山津・山代・山中の4温泉の総称)は日本に広まり、英語版「Lady Kaga Welcome to Kaga Spa resort」によって世界にも広まる。

 ガイジンもニホンジンも、来てもらおうとするとやっぱり知名度が大事。温泉地のプロモーションはどうあるべきか? 湯煙ホットな事例を挙げてみよう。


観光資源は武器ではあるけれど

 温泉地の観光資源といえば「食」。農産物や加工食品である。群馬県では銀座のアンテナショップぐんまちゃん家で「ぐんまのおかみ温泉地緊急PR(参照リンク)」を展開。こんにゃくやシイタケ、マイタケ、上州牛や上州麦豚など、県農産物の配布や試食販売を行った。温泉旅館のおいしい料理を提供して、予約につなげる方策である。

 「歴史」という資源を活用し、「この温泉地はかくかくしかじか……」で集客する手もある。古事記ゆかりの神社が多くある島根県では、2012年の「古事記編さん1300年」を記念して神社巡りツアーを企画する。三朝温泉(みささおんせん)では、古事記が編さんされた奈良時代の貴族の料理を現代風にアレンジして提供する。

 また、三朝温泉は映画『恋谷橋 La Vallee de l'amour』の舞台ともなった。温泉地は古くから恋や心中、逃避行の舞台でもある。温泉宿に逗留して小説を書く文士のイメージもある。「物語」もまた観光資源なのだ。

 ハズレる確率が高い(笑)「キャラクター」戦略もある。秋田県仙北市の田沢湖高原温泉郷ではマスコットキャラクター「オモテナシ3兄弟(参照リンク)」を今秋デビューさせた。全国公募の中から選んだ「ヌクインダー(温泉の精)」「フカインダー(湖の精)」「イヤスンダー(山の精)」の3兄弟。悪くはないんだけど……。

オモテナシ3兄弟(出典:田沢湖高原旅館組合) マーケティングの王道は「ターゲティング」である。山ガールをターゲットに山行と温泉宿クーポンとか、サイクリストをターゲットにサイクリングと輪行(公共交通機関で旅)と温泉宿のセットもいい。

 変わったところでは「なまり」。県下35市町村すべてに温泉が湧く温泉王国の山形は、なまりを売りにする“ナマドル”の佐藤唯さんをプロモーションに起用して、山形のほっこりした魅力をアピールする。「この寒さに温泉でけえしきみ(景色見)かね。おらと一緒に来っかの」なんて言われたら、ぐっと来ないだろうか。この言葉はおらの創作だがの(笑)。

 創作ではあるが、これは最近読み返した森敦氏の芥川賞受賞作『月山』の一文をもじったもの。『月山』は“なまり小説”で、雪深い庄内地方の朽ち果てた古寺で、じいさまがぼつぼつ語るなまりが幽玄な舞台を作る。一方、そこに訪れる主人公の標準語は、どこか間が抜けている。その対比にひたりたい。

 かように温泉地の販促策はいろいろ。だが、どれも“レディー・カガ”という秀逸なワンワードには勝てない。なぜだろうか。


わしづかみの“これでしょ”

 レディー・カガには、一瞬で心をわしづかみにしてしまう「これでしょ」がある。一方、イベント企画やお土産開発、キャラクター開発は「これでしょ」から始めずに、策からやってしまっている。

 資源を探してそれを生かす。そのアプローチは間違っていない。しかし、温泉地をクンクンして観光資源を集めるうちに、魅力の本質を見る目に湯あかが付いてしまう。にごり湯の底に印象が沈殿してしまう。「調査→企画→開発→販促」という“マーケティングアプローチ”には限界がある。メタ(超越)マーケティングでないとダメなのだ。

 加賀を歩く。駅にも店にもホテルにも旅籠にも「おお、美人が多いな」と美人好きなら感じるだろう。問題はその先だ。そこにLady Gagaを持ってくるのは、湯煙を離れないとできない。自分の世界観を持っていること、その中で「つまり……これでしょ」と言えること。顧客視点さえ越えた“メタ視点”が必要なのだ。

 さて、温泉地を斬新なアートで彩るメタ視点を出せるか……少し心もとない。だが、企画センスのある相棒cherryさんがいる。「どこから発想が出るの?」と聞くと、「分かりませんけど、眠っている時、私は白目をむいているらしい」と言う(笑)。メタな視点はマトモな目線では出ないのだ。



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