2012年6月7日木曜日

■日本情報専門紙やマンガ―高いフランス人の日本への関心


日本情報専門紙やマンガ―高いフランス人の日本への関心
http://jp.wsj.com/World/Europe/node_455481?mod=Center_Column
2012年 6月 6日  10:41 JST  WSJ【津山恵子の欧州最新ルポ】

 日本版コラムニストの津山恵子氏が4月末から約1カ月間、欧州・北アフリカを縦断取材。財政問題や金融不安に揺れる欧州各国の市民生活の今、ムバラク政権崩壊後1年余りたったエジプトの様子など、最新事情をリポートする。

 「カンヌ国際映画祭に行ったらどうか。あそこは日本への関心も高いし」

 フランス大統領選挙でスタートを切った欧州取材の途中、知り合った記者数人がそう勧めてくれた。私が日本人で、日本と欧州とのつながりという切り口を探しているのではないか、という同業者ならではの嗅覚だ。

 カンヌには行かなかったが、同映画祭では過去に、今村昌平監督の「楢山節考」など日本の4作品がグランプリを獲得。米アカデミー賞に比べると、同映画祭での日本映画の人気は極めて高い。冒頭の記者たちが考えたように、フランス人は日本への関心が他の国よりも高く、カンヌに行けばさらにネタがあるのでは、と思わせる背景がそこにある。

 果たしてほんとうに、フランス人は特別に日本への関心が高いのだろうか。

 まず、日本料理屋でふと手にした「ZOOM JAPON(ズーム・ジャポン)」という無料の月刊紙にびっくりした。日本人も知らないような日本ネタを、すべてフランス語で掲載。5月号は「原子力 静かな革命」と題して6ページに渡り、昨年の福島第1原子力発電所事故以降、顕在化した日本の反原発運動や、反原発を題材にしたアーティスト・ミュージシャンの動きなどをまとめていた。

 発行するエディシオン・イリフネによると、同紙は2010年創刊で、読者の95%がフランス人。店頭置きなどが毎月5万~6万部、ウェブサイトからのダウンロードが約5000部というから、フリーペーパーながら、その部数の多さに驚かされる。

 パリに40年以上在住し、パリの日本語隔週新聞「OVNI(オブニー)」などを発刊してきたイリフネの小沢君江さんは、こう語る。

 「昨年は、『パール・ハーバーから70年 日米の歴史の重み』という特集もしました。小さな媒体だからこそ、日本国内でも読むに値するような、書きたいことが書けるという特徴がある。そういう日本の姿をフランス語で知ってもらうために、ずっとこうした新聞を出したいと思っていました」


日本のマンガ売り場。米国と異なり、日本と同じ右開きのマンガが主流だ

   村上春樹作品などをフランス語に翻訳し続けている翻訳家・作家コリーヌ・アトランさんによると、日本ファンの層は2つの世代に分かれるという。川端康成や三島由紀夫を読んでいた知識層が中心の50~70歳代と、日本のアニメやマンガで育った20~40代という2つだ。

 「1950年代までは、日本に行かれることはなく、情報もなく、フランス人の中で、畳とか着物とか、神秘的なイメージだけが膨らんでいました。その後、旅費が下がって、旅行ができるようになり、マンガなどからもライフスタイルが分かり、もっと身近な存在になってきました」

 実際に、20~30代の若いフランス人作家のデビュー作品は、日本が舞台だったり、日本人の登場人物がいることが多いという。以前では極めて少なかったことだ。

 日本人女性がパリに来ると「パリ症候群」という鬱(うつ)病にかかるという話が流布しているというのも聞いた。日本好きで、日本での仕事を探しているというラジオ・アナウンサーのマージョリー・アシェさんが解説してくれた。

 「美しいパリで働けると期待を膨らませて来た日本人の特に女性が、実際には街は日本に比べて汚いし、サービスも悪いし、人々が不親切なので、失望して鬱病になるという話です。実際に、私の日本人の友人も、バッグをすられたりして1カ月泣いていましたが、しばらくして生活に慣れると回復しました。でも、英国メディアが大きく報じたので、欧州のほかのメディアも追い掛けて、特に日本人女性に対する先入観になってしまいました」

 実際に記事を探すと、英BBCが「パリ症候群が日本人を襲う」(2006年)という記事を出している。

 しかし、前出のアトランさんはこうも指摘する。

 「フランス人も京都症候群とか東京症候群というのがあるのではないでしょうか。ありきたりですが、日本女性がきれいで優しいというのは、サービスやマナーが行き渡っている社会だからです。また、京都の美しいお寺の横にラブホテルがあったりするのは、日本人には当たり前ですが、フランス人は、逆に社会や文化に対して隔たりを感じてしまうようです」

 私が住む米ニューヨークでは、米国人に対し、ズーム・ジャポンのような情報源はないし、一般的に米国人が文学や文化にいたるまで、日本に関心を高めているという実感はあまりない。書店をのぞいても、村上春樹以外で平積みになっているアジア人作家は中国人ばかりだ。しかし、パリは書店でも驚くような日本の小説の種類があった。日本人、フランス人の双方にあるとされる「症候群」も、もともと抱いていたイメージとのギャップが原因で、それだけ期待が高かったという表れだ。

 その意味で、もちろん国民性の違いもあるが、フランス人の日本に対する関心は、少なくとも米国人よりはかなり高い、とうれしい驚きを感じてパリを後にした。



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