2011年10月19日水曜日

■バリ観光過熱 環境汚染が深刻


バリ観光過熱 環境汚染が深刻
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/111019/mcb1110190505023-n1.htm
2011.10.19 05:00

 2002年、インドネシア・バリ島のナイトクラブで202人の犠牲者を出す同国最悪の爆破テロが発生した。スウェーデン人のディスクジョッキー、ファディ・アルターク氏(31)は、当時同国から脱出した5万2000人の旅行客の一人である。それから1年後、アルターク氏はバリ島に戻ってきた。

 同氏は「爆破テロが起きたときは『もうだめだ、もう誰も戻ってこない』とみなが考えた。しかし今ではバリ島のビジネスは以前よりも好調だ。誰もがひたすら投資を重ねている」と述べた。

 「神々の島」と呼ばれるバリ島は、美しい棚田、寺院、サーフィンができるビーチが人気を集め、過去40年以上にわたりインドネシア最大の観光地の地位を守っている。現在は開発・投資ブームに沸き、アルターク氏も分譲マンション事業を手がけて利益を得ているという。


 ◆過去最高250万人

 その結果、通貨高の恩恵を受けているオーストラリア人を中心として、同島への訪問者は過去最高の250万人にまで膨れあがった。住民やホテルの経営者によれば、旅行客の増加に付随して、交通渋滞、ビーチのごみの散乱、水の供給の逼迫(ひっぱく)などの問題が生じているという。政府はバリ島の中でも比較的開発が進んでいない地域への観光業の拡大を目指し、鉄道敷設や2つ目の空港の建設に13億ドル(約1000億円)規模のプロジェクトを計画している。

 急速な開発は、バリ島の観光業の成功に大きな役割を果たしている文化も危機にさらしている。芸術の町として知られるウブド郡があるギャニャール県のチョコルダ・オカ・アルタ・アルダナ・スカワティ県長は「われわれが将来のバリ島に求めるのは、クオリティーの高い観光業だ」と言う。そして「たとえば一杯のお茶があったとして、そこに湯を注ぎ続ければ、最後には味がしなくなってしまう。われわれはバリ島ならではの味わいが間もなく消えてしまうのではないかと危惧している」と述べた。

 1927年にドイツ人画家のヴァルター・シュピースがバリ島に移住して以来、同島には多くの旅行者が訪れるようになった。60年代には米国人のサーファー、80年代には日本人のゴルファーの間で人気が出たこともあって、インドネシアの経済成長の先頭に立った。

 そして現在はオーストラリア人の観光客が大量に同島を訪れている。11年の訪問者は、すでに8月時点で前年の年間訪問者数の64万8000人を超えている。これは06年と比べれば約5倍の規模である。

 豪カンタス航空のアラン・ジョイス最高経営責任者(CEO)は「オーストラリアの鉱業ブームがバリ島などへの観光を後押ししている。われわれにとって鉱業セクター関係者が最大の顧客であり、さらに需要が伸びる可能性もある。パースとバリ島を結ぶ路線は非常に重要だ」と述べた。

 パースからバリ島のデンパサールまでの飛行時間は3時間半。オーストラリア政府のデータによれば、同路線の7月末までの1年間の搭乗者数は前年比17%増の77万8049人で、同国の国際路線の主要10路線の中で最も成長率が大きかった。

 観光客の増加に支えられ、74億ドル規模のバリ島の経済は06年から年率平均6.5%の成長を続けている。英不動産大手のナイト・フランクによれば、バリ島の星付きのホテルの10軒に9軒は南部のビーチ沿いに集中し、旅行客の大部分がデンパサールの空港から10キロメートル圏内のホテルを利用するという。

 スカワティ県長は「バリ島の抱える最大の問題は道路だ。道路の整備はほとんど進展していない。バリ島を訪れる観光客は02年時点では1日に1500人ほどだったが、今では7000人に迫っている」と述べた。

 同島南部のスミニャック・ビーチでは、オーストラリアから来たピーター・アンヤライ氏(56)がパラソルの下に座り、海岸沿いでサーフィンを習う人々を眺めていた。彼らの周りには食べ物の包み紙やカップ、コンドームなどのごみが散乱し、道路から海へと悪臭のする汚水が流れ込んでいる。1977年からこの地でサーフィンをしているというアンヤライ氏は「汚水、ごみ、悪臭が大きな問題になっている」と指摘した。


◆ホテル建設を禁止

 環境悪化に対する抗議の声に応え、バリ州のマデ・マンクー・パスティカ知事は10年12月、最も開発の進んだ南部地域でのホテルの新規建設を禁止した。しかしナイト・フランクのリポートによれば、12年末までにホテルのキャパシティーは3242室、率にして16%増加し、2万3500室に達する見通しだ。

 現在進行中のプロジェクトには、南部の半島部に建設中の新空港も含まれる。これが完成すれば空港キャパシティーは倍増し、13年には年間2400万人の旅客に対応できる見込みである。同年には、米ホテルチェーン最大手のマリオット・インターナショナルのリッツ・カールトン・ホテルがヌサ・ドゥア近郊にオープンする予定だ。さらに同年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の開催に向けて、新空港に近いジンバランに新しいコンベンションセンターも建設される予定である。

 ニッコー・バリ・リゾートのゼネラル・マネジャーで、バリ島ホテル協会の会長を務めるジャン・シャルル・ル・コズ氏は「バリ島がキャパシティーの限界に達しているのは誰もが分かっている。南部ではすべてが過剰だ」と述べた。(ブルームバーグ Daniel Ten Kate)


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