2011年10月26日水曜日

■日本版LCCの可能性と課題、「空飛ぶ電車」の実現へ

日本版LCCの可能性と課題、「空飛ぶ電車」の実現へ
http://www.travelvision.jp/event/detail.php?id=50855
2011年10月24日(月)トラベルビジョン

ピーチやジェットスター(JQ)の代表者らが登壇し、日本でのLCCのあり方などについて議論した運輸政策研究機構国際問題研究所主催のセミナーとパネルディスカッション。前回は、当日の様子からそもそもLCCとは何か、それによってどのような効果が見込めるのかといった点について紹介した(リンク)。特に効果については、運賃の値下がりとそれによる市場の拡大が期待できるという。今回は、「日本版LCC」が実際にこの効果を実現するために何をしようとしているのか、必要なのはどのようなものかについて伝える。


▽LCCの課題は「差別化」

ジョージ・メイソン大学公共政策学科教授のケネス・バトン氏 世界の潮流から取り残されたようにLCC不在の状態が続いた日本市場。しかし、今年に入って全日空(NH)系のピーチ・アビエーションとエアアジア・ジャパン、日本航空(JQ)系のジェットスター・ジャパンが設立を発表。スカイマーク(BC)も、成田就航にあたり「これまでも我々はかなり努力して安い運賃を提供してきた」が「根本的な事業スタイルは大手と何ら変わっていなかった」とし、「成田では本格的なLCCのスタイルを採用する」(すべてBC代表取締役社長の西久保愼一氏)と表明。片道980円のバーゲン運賃を設定するなど、潮目が変わりはじめている。

 「LCC文化」のない日本市場で、いかに事業を成功させるか。ジョージ・メイソン大学公共政策学科教授のケネス・バトン氏は、諸外国の先例を挙げ、「多くのLCCが抱えている問題は、(ある市場で)成功すると他のLCCが次々に参入してきて市場が溢れてしまうこと」であると指摘。LCCと一口で言っても多くの会社が参入と事業停止を繰り返しているといい、例えば欧州だけでも2003年から2005年までの間に50社以上のLCCが姿を消したという。

 こうした環境下で生き残るためには、他社との差別化が重要になる。バトン氏は、例えばサウスウェスト航空(WN)はLCCでありながらフルサービスキャリア(FSC)と同様のサービスを提供しているといい、「従来型の航空会社とほとんど変わらない」と指摘。その上で、「LCC自体も進化する。日本やアジア市場について考えれば、LCCがどこまでこういった進化の中に踏み込んでいけるか」が課題であると強調した。


▽事業モデルの明確化がカギ-LCCは「空飛ぶ電車」?

ピーチ代表取締役CEOの井上慎一氏 日本市場での差別化について、ピーチ代表取締役CEOの井上慎一氏は、例えば同じくNH系であるエアアジア・ジャパンが成田を中心とするのに対して、ピーチは「関西拠点のアジアのリージョナルエア」であることがカギとの考えを示す。関西を選んだ理由は「東京よりもアジアに1時間近い」ためで、「我々はアジアにフォーカスする」と強調。また、「日本人の強みを活かすこと」も事業の根幹に据えているといい、「ホスピタリティ」「カワイイ、カッコイイ」といった日本らしさを活用していく方針を示している。

 事業のイメージとしても「既存の航空会社の延長線上ではなく、航空を利用した新しい交通モード」をめざしているといい、「簡単にいうと、“空飛ぶ電車”」であると説明。

 例えば「電車を乗る時に、コールセンターに電話してチケットは買わず、無人の券売機でA地点からB地点までのチケットを買う」、あるいは「自分が希望した席に座りたければ、別料金を払って指定券を買う。車内でお弁当を食べたい、お茶を飲みたい方は自分で買ってくるか、あるいは車内のワゴンで買う」といった点がめざす姿を表していると指摘した。

 このほか、差別化以外の課題としてJQグループCEOのブルース・ブキャナン氏は規制緩和やコスト削減を挙げる。規制緩和については、例えば国外の免許を持つパイロットによる運航を認めることや、海外の機材メンテナンス会社に日本企業との競合を認めることを例示。また、「日本でのグランドハンドリング費用はオーストラリアの6倍、シンガポールの8倍」とし、空港関連コストの引き下げにも言及した。


▽訪日市場拡大にはパートナーシップ構築を

JQグループCEOのブルース・ブキャナン氏 もう一つ、パネリストが市場開発の課題として口を揃えたのは関係企業とのパートナーシップの確立。ブキャナン氏はパートナーとして空港会社や観光業者、規制当局、航空機メーカーを例示。井上氏も、「インバウンドのお客様を考えた時、安い運賃を提供してアジアから日本にお連れしても、その後は関与できない」とし、「航空事業、観光事業のバリューチェーン全体の中で議論をするようなムーブメントを巻き起こしていければと考えている」と語る。

 また、セントラルフロリダ大学ホスピタリティ経営学部副学部長の原忠之氏も、居住地を出発して飛行機に乗り、日本の空港でのCIQを経てホテルまでの交通機関で移動するといった一連の行為が、「観光客から見れば繋がっているが、サービス供給者の側からすると、私は空港だけ、私は飛行機だけと、どうしても統一された見解ができない」と指摘。オーランドなどの例を挙げつつ、「観光客から見れば、一連の流れの中でのプレーヤーに過ぎない」ことを認識して協力することが重要とした。

セントラルフロリダ大学ホスピタリティ経営学部副学部長の原忠之氏 なお、旅行会社との関係について井上氏は、「空飛ぶ電車」(リンク)をめざしていくと、「旅行会社や関係するベンダーなどとの関係も変わってくる」と言及。井上氏はかつて本誌らの取材に対して、「(流通の)コストが増えるとビジネスモデルが死んでしまう」ことから、販売は主に自社ウェブサイト経由とする予定を示しており、低運賃を実現できる関係が成り立てば柔軟に対応するとしているものの、積極的な様子は伺えない。

 これに対して、ジェットスター・ジャパンは国内線の販売も旅行会社に期待する方針をいち早く打ち出しており(リンク)、この差異も一つの差別化と捉えられるだろう。



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