2011年10月12日水曜日

■日本人こそ見直したい、世界が恋する日本の美徳


日本人こそ見直したい、世界が恋する日本の美徳
http://diamond.jp/articles/-/14317
【第1回】 2011年10月7日  永田公彦

 日本に行く度に不思議に思うことがあります。それは自虐的ともいえる、自国(自分たちの社会)に対するネガティブな発言があまりにも多いこと、一方で、世界が素晴らしいと讃える日本人社会の良いところ、つまり「世界が恋する日本の美徳」に光があたっていないということです。


「変なネガティブ発言」が多すぎる!

 「縮小、崩壊、斜陽、後退、衰退、低下、老化、不信、内向き、閉塞、孤立、ガラパゴス化、草食化…」日本ではこうしたネガティブ用語が連日飛び交い、その密度も年々高まっている感じがします。

 もちろん、構造的な諸問題(経済の不調、政治の混乱、国際社会での相対的地位の低下、可処分所得など家計の悪化、公的債務の増大、社会の高齢化等)と、昨今ますます不透明感を増す世界の金融市場や、3.11後の見えない復興ビジョンの重なりによる国民の不安・危機感・焦燥感・失望感の高まりが背景にあることはわかります。

 ただ、それにしても日本では、政治家、マスコミ、評論家から一般市民に至るまで、どうも自分たちの政治・経済・社会に対するネガティブな発言が多過ぎです。しかも、そのほとんどが批判の域にも達しない、陰湿かつ幼稚な誹謗中傷、言葉狩り、愚痴、感情論がたくさん目につく……そんな印象を受けるのは、僕だけではないでしょう。

 こうした社会では「自分たちは悪くなる一方だ」という暗示にかかり、“何をやっても駄目シンドローム”に取りつかれる国民が出てきても不思議はありません。また、四六時中こうした大人の「変なネガティブ発言」を聞きながら育つ子どもたちは、将来どんな大人になってゆくのか。想像しただけで恐ろしくなります。


もっと批判して
もっと良いところに光をあてよう

 日本では変なネガティブ発言は多い反面、批判が少ない。

 批判は良いことです。世の中の進歩に向けた第一歩です。人に考える力、コミュニケーションする力、そして社会への参加意識を与えます。「これ本当かな?おかしいよ?こっちに行くのも有りじゃない?もっと賢いやり方あるかも?こうしたらどうだろう?」と、批判的な見方で自分の考えを展開します。

 やり方は色々あります。言いたい相手に直接会ったり、メールをする。SNSやブログを使い、広く世間に発信してもいいでしょう。自分や相手の学歴、肩書きなど気にする必要はありません。相手との意見・主張の衝突を恐れることもありません。衝突は前進の糧だからです。
 僕は日本で時代錯誤の権力構造、組織体制、規制規範がいつまでたっても崩れず、社会に大胆なイノベーションとダイナミズムがもたらされない最大の理由は、この国民(有権者)の批判精神の欠如にあると考えています。

 ですから名を名乗り正々堂々と「ちょっと待った」と一石を投じる日本人が増えることを、強く願って止みません。

 一方、世の中が進歩するためにはこうした批判に加え、もう1つ大切なことがあります。それは自分たちのポジティブな部分に光をあて、これをグローバル舞台で活かすことです。このポジティブな部分とは、日本人の得意分野や長所です。他の国々ではなかなか見られないが、日本では当たり前のこととして、多くの人が何気なしに行なっていることです。

 これらは日本の歴史・風土・文化の中で育まれた日本人特有の文化価値観に根ざしていて「日本や日本人のここが好き…ここが素晴らしい」「自分たちの国も取り入れればいいのに…自国の人達もこうなればいいのに」と世界の人たちが愛し、羨む点です。

ここが凄いよニッポン人

 先日パリ市内のカフェのカウンターで、スマートフォン片手にエスプレッソを飲んでいると、隣の男性が「日本の株価はどうだ?」と僕に尋ねます。少し上昇したと答えると彼は「日本には高い技術力がある。そして何よりも社会に強い連帯感があるのが素晴らしい」と付け加えます。

 なぜそう思うのかと聞くと「日本では政府による夏場の節電要請に対し、自動車関連の大手企業などが生産体制を変更した。電力需要の少ない土日に工場を操業し代わりに平日2日間の休日を与えたではないか。国民の間にそれぞれの立場を超えた連帯意識があるのは羨ましい。正直ヨーロッパ含め多くの国では難しい…」と言います。

 僕もこの日本企業の生産体制変更の動きは知っていました。ただ「世界が羨む日本人の連帯感」との発想は全くありませんでした。確かに言われてみると、この節電対策は政府・企業・従業員の三者連携による、素早い緊急対応事例です。仮に、この三者間で分離・対置・契約の概念が強い欧州でこうした体制変更となると、交渉に莫大なエネルギー、時間、コストがかかるでしょう。

 なるほど彼らの目にはこうした日本の動きが「自分たちにはない連帯感」と映るのだと気づかされました(ちなみにこの男性と後で名刺交換したところ、世界各地に自社拠点を置く大手自動車部品メーカーの社長でした。なるほど生産体制変更の話題が出た訳です)。


皮肉にも3.11は
世界に日本人の美徳を知らしめた

 皆さんの中にも前述の例のように、外国人から「日本や日本人のこういう考えや行動が素晴らしい」と聞かされ、日本人の良いところに気づかされた、又は再認識させられたという経験をお持ちの方は多いと思います。

 例えば、皮肉にも日本が歴史上最も世界中の人達から注目された、3.11東日本大震災直後の数週間を振り返りましょう。海外メディアは、地震・津波・原発事故そのものを伝える報道に加え、日本人の行動に大きく注目しました。

 彼らはこぞって「厳しい状況でも、パニックに陥らず、社会秩序を守り、辛抱強く、整然と、助け合い行動する国民」「非常事態の混沌とした市街地でも盗難や強盗をしない市民」「被災地へ支援の手を差しのべる全国的な連帯」「被爆や余震リスクを承知で支援・復旧活動にあたる関係者や市民」…と日本人を讃え世界に発信しました。

 また日本のメディアや海外在住の日本人も、海外の政府関係者、スターや一般市民による日本人称賛の声を日本に逆発信し、複数のネット系メディアのチャットでは、僕も少し参加しましたが、日本人の行動を讃える世界中の人たちからの多くのコメントが地球を駆け巡りました。

 こうして皮肉にも3.11は、世界に日本人の美徳を一気に知らしめたと同時に、多くの日本人に「世界が恋する日本の美徳」とはどういうものかを発見、または再認識するきっかけをつくりました。


他にも美徳は盛り沢山

 前述したこと以外にも、世界が恋する日本の美徳は数多くあります。例えば、よく耳にする声を列挙してみましょう。

 「街中・トイレ・駅等の公共スペースが綺麗」
 「日本人は入浴回数も多いと聞くし服装も小奇麗で清潔感がある」
 「夜中の外出でも安全」
 「人が紛失した物を届けるなんて親切」
 「人も車も多い割には静かで整然としている」
 「ゴミはゴミ箱に捨てる、赤信号は渡らない、歩きながら食わず・飲まず・吸わずなど公共ルールを守る」
 「風邪ひいたらマスク、電車内ではマナーモードなど周りの人たちを気遣う」
 「チーム内で残業処理を助け合う」
 「上司(先輩)が部下(後輩)を育てスキルを伝える」
 「料理・庭園・生花・商品パッケージ等が繊細で美的センスが高い」
 「人との約束でも交通機関でも時間を守る」
 「サービスが行き届き正確」
 「工業製品や芸術品の品質と精度が高い」
 「食事バランスがよく健康・長寿」
 「サムライブルーやなでしこジャパンなど身体的ハンディを克服しチームワークて勝つ」
 「建築物・庭園など自然と人との一体感がある」
 「デザインや技術面で伝統と近代が共存」

 例をあげていくときりがありませんが、これらをあえて整理すると、和 (Harmony、 敬 (Respect)、 清 (Purity)、 寂 (Tranquility)、わび・さび (WabiSabi)、克己(Self‐Control)、思いやり(Empathy)、繊細(Refinement)、仁(Benevolence)、連帯(Solidarity)、集団(Collective)の精神に基づくものが多いようです。


一方で世界に嫌われる
日本人の文化価値観もあるが…

 前述のように日本人の文化価値観の中には、多くの外国人が認め讃えるものが多くありますが、一方で彼らが理解に苦しむ、受け入れ難い、耐え難いものも多くあります。例えば「根拠なきお客様の苦情に平謝り」「理由を伝えずとにかくヤレと言う上司」「大学出たのにお茶汲み」「家族と夕食より上司と一杯」「セックスなくても続く夫婦」などです。

 こうした、日本では通用するが世界では嫌われる日本人の伝統的な文化価値観についての考察も、もちろん大切です。特に、企業活動のグローバル化や国内社会のダイバーシティを進める上で不可欠です。また単純に、日本人が海外又は国内で外国人と生活や仕事をする際にも役立つでしょう。是非とも別の機会に取り上げたいテーマです。

 しかし、こうした「世界に嫌われる日本の美徳」に着目するよりも、一時も早い復活を目指す今の日本に大切なことは、日本人自身が日本の良さを見失ってゆかないように「世界が恋し、グローバル舞台で通用する日本の美徳」に光をあてることではないでしょうか。

皆で積極的に世界に発信

 さて、こうした日本の美徳に光を当てる際に留意すべき点が2つあります。1つ目は、先にあげたような数々の美徳を、日本人自らが深く考察したうえで、その良さを十分認識することです。
 例えば、なぜ外国人は「他人の紛失物を警察や忘れ物係に届けること」を、道徳観が高く素晴らしい行為だと言うのか?なぜ日本人は紛失物を届けるのは当然だと思うのか?……このように哲学のトレーニングではありませんが、色々な角度から自問自答と議論をして考察と認識を深めます。

 2つ目は、こうして深く認識できた日本人の美徳を皆で積極的に海外へ発信することです。発信方法は色々あります。映画、文学、報道番組、マンガ、アニメ、ゲームなどのコンテンツに取り入れる、ダンス、音楽、料理などの文化芸術に取り入れる、柔道のようにスポーツに取り入れる、日本発世界に向けた各種のモデル(経営・人生・ビジネス・サービス)を創りそこに取り入れる、開発する製品や技術に取り入れる、個人のホームページ、ブログやSNSで発信するなど、各自が自分の立場でできる範囲のことをすればいいのです。

心の乾きを癒し社会に温もりを与える

 歴史を振り返ると世界に広がった日本人の美徳もあります。例えば、浮世絵、折り紙、マンガ、アニメ等の芸術文化、寿司、懐石等の和食、柔道、相撲等のスポーツ、カイゼン、ゲンバ等の経営手法、一部の精密機械等の工業製品です。

 ただ残念なことには、これらはまだまだ、一部の分野に留まっています。日本の美徳は「国内で眠れるサムライ」のようなものです。一刻も早く眠りから目を覚まし、外へ向け積極的に発信すべきです。これは日本人に自信と活力を与えます。日本の新しい国家ブランドを確立します。国力と国際社会での日本の相対的地位を高めます。

 そして何よりも、世界の人々に貢献します。理由は簡単です。世界の人々は、ますます混沌が深まり人間関係が殺伐とした社会で、時間のプレッシャ-を強く受けながら生きています。日本の美徳は、こうした人達の心の乾きを癒し社会に温もりを与える役割を果たすと、長年日本の外から世界各地と日本を見つめる者として、確信できるからです。


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