2011年10月6日木曜日

■業界トップが語る「震災、現在、未来」-JATAシンポジウムから


業界トップが語る「震災、現在、未来」-JATAシンポジウムから
http://www.travelvision.jp/event/detail.php?id=50599
2011年10月5日(水)

 9月29日と30日に開催されたJATA国際観光フォーラムの初日は、日本旅行代表取締役会長で日本旅行業協会(JATA)会長を務める金井耿氏が基調講演を実施したほか、ジェイティービー(JTB)、エイチ・アイ・エス(HIS)、阪急交通社の代表取締役社長である田川博己氏、平林朗氏、生井一郎氏が登壇したシンポジウムがおこなわれた。震災が旅行業界に与えた影響、そこからの回復と今後の見通し、そして旅行会社の進むべき道について、旅行業界を代表する企業の経営者はどう捉えているのか。講演とシンポジウムの内容から伝える。

▼震災からのスピード回復

 金井氏は、東日本大震災による影響を、データを用いて1995年の阪神淡路大震災や2001年の9.11、2003年のイラク戦争/SARSと比較。これによると、阪神淡路大震災は国内旅行、9.11は海外旅行、SARSは海外旅行と訪日旅行がダメージを受けたが、東日本大震災では海外、国内、訪日のすべてが落ち込みを見せたという。生井氏も、震災後の1ヶ月間で海外で8万人、国内で26万人のキャンセルが発生したと報告している。

 一方で、8月の日本人出国者数が日本政府観光局(JNTO)による推計値で前年比9.1%増の179万2000人となり、8月としては過去最高を記録するなど、海外旅行は順調な回復を見せているところ。金井氏は、「ビジネス需要が先に回復し、レジャーが追いかけている」と分析。こうした回復のスピードについて田川氏は、「SARSや9.11のように海外の旅行先に危険や懸念材料がなかった」と要因を分析。金井氏や田川氏は、観光庁長官や被災地自治体の首長による「自粛の自粛」を求めるメッセージも追い風になったと指摘した。

 生井氏は、得意とするシニア層が金銭的、時間的余裕があり、「いつでもキャンセルできるけどいつでも行ける」ため、「6月にはほとんど回復した」と言及。平林氏も「個人でレジャーに行くお客様は比較的影響を受けなかったのでは」とし、早い段階で自粛を脱したと分析する。

 今後の市場拡大の可能性について平林氏は、インバウンドの回復による日本市場向け座席の減少に懸念を示しつつ、「近いうちに出国者数は(2000年に記録した)過去最高値を超えるのではないかと思っている」と予測。生井氏は「2000万人に到達することはない」との持論を展開しつつ、高齢化によるシニア層の人口の増加率と、旅行需要の伸びは比例すると指摘。田川氏も人口動態による推移に同意した上で、若者などこれまで海外旅行に行ったことのない人の需要を喚起し、日本の出国率を引き上げることが重要になると語った。

 実際に出国率を上げるためには何が必要か。田川氏は「小さい時、若い時に海外旅行を経験していない人は、大きくなってから海外に行かないという統計もある」と紹介し、「できるだけ若いうちに海外を経験してもらうことが出国者数を伸ばす要因なのではないか」と言及。このほか、座席供給量問題への対応としてのチャーター強化や、地方での出国率向上のためには空港のあり方が見直されるべきといった議論もなされた。

 田川氏はまた、デスティネーション側の施策にも言及。「観光地というのは永遠にあるわけではなくて、観光客が来なければ衰退する」とし、常に観光客を呼ぶには「地域が常に次の一手を打つことが必要」と分析。スイスを例に取り、カナダやオーストラリア、ニュージーランドなど自然を強みとするデスティネーションとどのように差別化するかがポイントになると語った。

 さらに田川氏は、社会全体で今後所得格差が広がり、二極化していくとの認識を示した上で、それぞれの層に対応する必要があるとも語っている。また、金井氏も講演で、「節電や休暇のあり方が変化することで、それが旅行のあり方の変化にもつながる」とし、「自然」「滞在型」「ニューツーリズム」といったキーワードを列挙。こうしたキーワードに沿って、「受身ではなく新しい旅の形を創り出す営みをしていかなければならない」と訴えた。

 所得格差の拡大や、震災による消費者の生活の変化とそれによる旅行スタイルの転換など構造的な変化に、旅行業界はどう対応すべきか。そもそも旅行会社は、消費者ニーズの変化、団体から個人、個人からFITへの推移、サプライヤーの直販化、ゼロコミッション、ネット販売と店舗営業との関係など、諸課題に直面しているが、金井氏は「これらへの対応の遅れを否定できない」と率直に認める。すでに旅行業界は「崖っぷち」に立っており、左右どちらかに道を見出さなければならないとの認識だ。

 その上で金井氏は、こうした環境下でも成長を続けている企業もあると指摘し、「業界共通の解はない。自ら答えを出していくということを必死にやっていかなければならない」と訴える。それによって「社会的、経済的機能としての旅行会社の再確立」をすべきであり、そのためには「我々を使うことに価値を見出してもらう」ことが前提となるという。


▼人材育成で価値提供を

 旅行会社の価値とは何か。金井氏は、「目的としての海外旅行から手段としての海外旅行に」変化している今、「ただ旅を組み立てるのではなく、旅をプロデュースする」こと、「旅行のプロ」であることこそが取り組むべきポイントだと強調する。

 しかし、「作れば売れる時代」が同業間競争であったとすれば、現在はインターネットなどによって大量の情報が流通し、「“消費者と業者間の競争”も出てきている」ところ。「旅行会社はプロであり、プロとアマチュアが競争するなんてことはあってはいけない」のだが、実際には後塵を拝してしまっている。

 「旅行のプロ」であるために必要なこと。金井氏の提案はシンプルだ。「答えのない時ほど“原点回帰”」、「人材育成、研修、実践のステップをもう一度見直すべき」という。金井氏は、旅行会社の経営者の立場として、人材育成がコストや時間を要することから取り組みにくいとしつつ、「時間がないといっても、そうしなければ崖から落ちる」と強く主張。「回り道に思えるかもしれないが、原点回帰。答えは必ず存在することを信じて、皆で取り組んでいくべき」と訴えた。



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